酒とたばこの日々・・・あるイタリア男同士の、健康にまつわる会話

2016年02月18日

スローフード・スローライフの地イタリア*シエナより愛をこめて 第16回

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愛と平和、そして自由に生きるムーブメントの最中に酒とたばこと青春を謳歌した「フラワーチルドレン」たちも、今では60代。それぞれが違った価値観を持ちながらも、親友の生き方、個性を認めるところに、当時の精神が垣間見られる。

親友との話題が病気にまつわるテーマになってきた


パトリッツィオとバールでお茶をしているところに、ルカが現れた。

ルカはパトリッツィオの悪友の一人で、いつも真っ白なあご髭を撫でながら話をする。

「やあ、パトリッツィオ。元気かい?」

「おぉ。寝違えちまって腰が痛いが、何とか元気だ。
ボローニャの病院で、肝臓のテラピーを始めたよ」

ここシエナにも大きな総合病院があるが、
腫瘍やがんに関しては、ボローニャの病院が有名だ。

肝臓がんを患ったパトリッツィオは、昨年、3度の肝動脈塞栓術でがん細胞を殺した後、
今は、C型慢性肝炎の治療に取り組んでいる。

この症状がある限り、肝臓の炎症が続き、また肝硬変からがんへと進行してしまう。

定期的に病院でテラピーを受けるほか、毎日薬を1錠飲み始めた。

1か月に1箱、半年間服用し続けるのだが、薬の外箱に印字された価格を見て驚いた。

1箱、28,000ユーロ(約364万円)。
これを6か月飲み続けると、2000万円を超す。

薬代は社会保険でまかなわれるため、彼はお金を払わず入手できる。

私の盲腸の手術の際も、手術費、入院費など、一切支払いが発生しなかった。

プライベートな生命保険並の役割を果たすイタリアの社会保険制度に、改めて感心する。

悪友は、短い言葉で分かり合える


ルカは昨年末に口腔腫瘍が見つかり、来週、それを切り取る手術を受ける。

「医者から、3つのことを言われた。
 たばこを止めろ。酒を飲むな。そして、髭を切れ」

ルカにとって、たばこと酒は主食であり、あご鬚はトレードマークだ。

「まだ、腫瘍が良性か悪性か分からんが、
 今さら、酒とたばこは止められねえ。
 俺じゃなくなっちまう」

そんなルカの肩に手を回し、パトリッツィオが宥めるように言った。

「やってみろよ。酒とたばこを絶つと体の調子が良くなって、いいもんだぞ!」

パトリッツィオも、3年ほど前までは、水代わりにワインやウイスキーを飲み、
たばこを欠かさなかった。
今では、月に1~2度、グラス1杯の赤ワインを飲む程度で、たばこには手を出さない。

「俺はさ、このまま、たばこと酒を続けるよ。そして、一気に逝っちまうのさ」

そんなルカを見つめ、パトリッツィオが真顔で問いかける。

「なぁ、頼むから・・・車は俺に譲ってね」

パトリッツィオの車はよく故障し、今も修理工場にある。

ルカは頷いて、手巻きたばこを整え、ビールを一気に飲み干すと、

「手術するから、髭を剃らなきゃならん。
今、カーニバルシーズンで、仮装の衣装がどこにでも売っているから助かるよ。
これから、偽物の髭を探しに行くぞ・・・」

と言って去っていった。

「ねえ、ルカは本当にお酒とたばこを続けるつもりかしら?
 命がどうでもいいって思ってたら、お医者さんのところに通わないよね?
 私達の前では強がって、自宅ではお酒もたばこもやってなかったりして・・・」

「そうかもな」

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酒とたばこを絶ったパトリッツィオ。愛犬の散歩で、運動不足を解消

自分らしさにこだわるほどに、潔く生きている?


パトリッツィオとルカは64歳。

パトリッツィオは生活習慣を改善し、今では健全な生活を楽しんでいる。

ルカの場合は、どうだろう? 

誰に何と言われようが、自由を愛するイタリア人。
人生のフィナーレまでも、自分らしさにこだわる。

そして私の場合、人生のシナリオはどんな風なのかな?
私らしさ、というスタイル、あるのだろうか?

47歳になった今、
周囲の人から映る自分を意識し、世間に同調しようと、世間のオピニオンに耳を澄まし、
自分に足りないものを埋めたがっている。
協調性を重んじて、謙虚であることが美徳と信じているが、
同時に、自分のアイデンティティを軸に、周囲に流されず堂々と生きたい、とも思う。

相手に自分の価値観を押し付けない、そんな彼らの在り方から、
友情の香りが漂った、ひと時のバールでした。

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平日の午後、寒かろうが、外で酒とたばこをつまみに過ごす大人たち

プロフィール

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大多和聖美(おおたわきよみ)
トスカーナ州・シエナ在住。ソムリエ。ワインショップ、小麦粉アレルギー対応レストランでのコック体験を経て独立。「エノテカトスカーナ」を立ち上げ、日本にワインやオリーブオイルの販売を行う。

コメント

    さくら

    2016年02月24日 11時56分

    さくら

    人間味が感じられるイタリアの記事いつも楽しみに拝読しています。
    ルカ氏はきっと月明かりベッドの中で丸くなってるんじゃないだろうかと思いながら読ませていただきました。

    >「私らしさ、というスタイル、あるのだろうか?」....
    >周囲の人から映る自分を意識し、世間に同調しようと、世間のオピニオンに耳を澄まし、.....
    私も同じことを考えたことがあります。
    人生の折り返し地点を迎え...

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