医療現場でも活用される音楽の力

2016年01月19日

聴くだけでスッキリ! Dr.藤本の「音楽は名医」(全12回) 第11回

1463486297


音楽の効果は医療の現場でも注目されており、多くの研究が行われています。その活用について、いくつか身近な事例を通してご紹介したいと思います。

病院での待ち時間を音楽で心安らかに


診察を待つ時間というのは、体調の悪さによる辛さ、病状や診察への不安がつのるものです。それを和らげるものとして、音楽を活用できるという研究発表があります。

例えば、歯医者さんでの待ち時間。独特の機械音が聞こえると、過去に感じた痛みを思い出したり、これからの治療の痛みを想像して気が重くなる経験をされた方も多いのではないでしょうか。

34人の患者さんを治療前に音楽を聴かされるグループと音楽なしのグループにランダムに分けて比較する研究がメキシコで行なわれました。治療前に音楽を聴いた患者さんは、同程度の不安を感じていた音楽を聴かなかった患者さんに比べて、唾液中のコルチゾル(一過性のストレスがかかると増加するホルモン)が減り心拍数や血圧も下がって、不安が明らかに緩和されたことがわかりました(参考文献*1)

1463486297


また、トルコでは、救急で来院した患者さんへの音楽の効果を、アンケートと不安や痛みの指標に基づいて検証しています。対象は意識があり安定していて比較的症状が軽いけれども、吐き気や下痢による痛み、腹痛や頭痛を訴える患者さんです。院内放送で音楽が流れているときに来院した患者さんは、音楽がないときに来院した患者さんに比べ、不安と痛みのレベルがどちらも少ないという結果でした。また、音楽を聴いた100人のうち約8割の人が好感を覚え、全体の2割の人はとても満足したと報告されています(参考文献*2)

まだ日本では待合室で音楽を流している病院のほうが少ないと思いますが、患者さんの状態を少しでも楽にする方法として音楽の活用を試みる医療機関が増えると良いと思います。

音楽で手術が手早く上手く終わる!?


手術というのは、体にも心にも大きな負担のかかるものです。そして、それぞれの患者さんで程度の差はあれど、痛みや不安はどの患者さんにも共通するものです。

2000〜2014年に発表された手術患者さんへのアート(音楽、インテリアデザインを含む視覚芸術、建築的要素)の効果についての論文を集め分析した結果によると、音楽は血圧や心拍数を下げ、不安や術後の痛みに効果を発揮し、患者さん自身が聴く曲を選ぶことでこのような効果が増すと報告されています(参考文献*3)。また、別の論文では、痛みの緩和と共に鎮痛剤の量も軽減できたという報告もあります(参考文献*4)


1463486297


さらに手術を行う側への音楽効果を検証するため、手術の練習でよく使われるブタの足に付けられた傷口を、音楽があるときとないときで、縫合する時間とできばえを比較したテキサス大学の研究があります。術者の好きな音楽をヘッドホンで聞きながら縫合したときは、かかった時間が平均8%ほど短縮され、経験豊富な術者においては10%に達しました。できばえもわずかですが、音楽なしの場合より良いという結果です。もちろん複雑な手術や想定外の局面では音楽を止める必要もあるでしょうが、手術時間が短くなることは、患者さんの負担軽減につながり期待が持てる研究結果です(参考文献*5)

名演のBGMで痛みを軽減


実際私のクリニックでも音楽を日々の診療に役立てています。レーザーの治療を行うクリニックですので、治療に伴うレーザー照射時の痛みを軽減することが主な目的です。好きなクラシックを中心に選曲していますが、商業施設ということと古いビルということもあって、クリニックを開院する際理想を実現するほどにはスピーカーや音響にこだわることができませんでした。ここは残念な点ですが、BGMとしては音量を多少大きめに、そして音量高めでスピーカーの質に限界があっても聴くに堪える名録音、名指揮者、名演を集めてかけています。

私のクリニックにはオペラ歌手やプロのピアニスト、ピアノやヴァイオリン、チェロなどを教えておられる方、演奏家ではないけれどレコード会社や音楽関係に仕事で携わっておられる方・・・といった方も多数お越しくださっていますが、こういった方にも概ね御好評いただいています。一方、ここまでお話ししてきた通り、クラシックには聴くほどに耳と意識が捕らわれてしまうという側面もありますので、スタッフルームでは音量を極力抑えています。そうしないと、事務作業の内容によっては、はかどらなくなってしまうものもあるからです。そのため、時々はスタッフからの希望もあり、気分転換も兼ねてボサノヴァやジャズ、ポップスなども盛り込んでいます。こうした意味でも音楽の効能効果は実に奥深く、まだまだ解明されてない点も多く、研究材料としてとても面白いものであると思います。


1463486297

無人島に一枚だけ持っていくなら「チャイコフスキー&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲」


もう何枚所有しているのか私自身わからなくなってしまっているCDの中で、「この中で一番好きなCDはどれですか?」と聞かれることが少なくありません。そんな時すこし悩んだのち必ず名前を出すのが、カラヤン指揮 ウィーン交響楽団 スヴャトスラフ・リヒテルによる「チャイコフスキー&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲」です。無人島にもし一枚だけCDを持っていけるとしたら間違いなくこの名盤を私は持っていきます。リヒテルとカラヤン、ピアノと指揮で「協奏曲」ならぬ「競争曲」を演奏しているような一枚です。お聴きになったことのない方はぜひ一度聴いてみてください。

もう一枚、これはBGMで流すと盛り上がるのが、ジェイムズ・レヴァイン指揮、シカゴ交響楽団によるグスターヴ・ホルストの組曲「惑星」。監修したCDシリーズにはクラシック初心者の方にも親しんでいただけるよう日本でメジャーな楽曲である「木星―快楽をもたらすもの」を収録しましたが、実際クラシックファンが唸るのは「火星―戦争をもたらすもの」ではないかと思います。私の大好きなNY METメトロポリタンオペラの歴史を変えた天才指揮者・レヴァインの解釈は非常に映像的で独特なものですが、これに「世界一のブラスセクション」を率いるシカゴ交響楽団が余りあるエネルギーと技術で応え、パーカッションと弦もダイナミズムと繊細さのバランスを際どいレベルで保ちながら、壮大な宇宙を描き出します。曲に集中した瞬間からすっと現世を離れるような感覚を味わえる稀有な楽曲です。


音楽の恩恵は、いろいろな場面での活用が期待できるものです。今後、研究が進むほどに私達の生活がより良いものに変わっていくことは間違いないでしょう。

最終回となる次回は、私たちすべてにひとりひとり備わっているオーケストラと、私が最も好きな作曲家、ワーグナーについてお話しします。

プロフィール

1463486297

藤本 幸弘(ふじもと たかひろ)
クリニックF院長、医学博士、工学博士

麻酔科医として勤務した痛み治療外来でレーザーによる痛み治療と出会い、レーザー専門医の道に転向。現在は主にアンチエイジング領域におけるレーザーに特化した研究を行っている。海外で精力的に研究発表を行う中、自身の趣味でもあるクラシック音楽の科学的効果についても独自に検証を行う。本年ユニバーサルミュージック社よりCD「聴くだけでスッキリ」シリーズを刊行。クリニックFでも自ら選曲を行い診療に役立てている。

参考サイト
クリニックF http://clinic-f.com/
藤本先生ブログ http://clinic-f.com/blog/

1463486297

チャイコフスキー&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲、他
スケーター浅田真央さんが演技で使用したラフマニノフとCMでおなじみのチャイコフスキー。ただ、このCDの魅力は独学で学び「幻のピアニスト」「ピアノの巨人」と言われYAMAHAのピアノを愛用したリヒテルの演奏でしょう。

品番:UCCG-4602
価格:¥1,646(税込)
レーベル:ドイツ・グラモフォン
発売日:2009年10月21日
発売元:ユニバーサルミュージック合同会社
http://www.universal-music.co.jp/sviatoslav-richter/products/uccg-4602/



<出典・参考文献>
*1 Mejia-Rubalcava C et al. Changes induced by music therapy to physiologic parameters in patients with dental anxiety. Complement Ther Clin Pract. 2015 Nov;21(4):282-6. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/ 26573456

*2 Parlar Kilic S et al. Effect of music on pain, anxiety, and patient satisfaction in patients who present to the emergency department in Turkey. Pan J Nurs Sci. 2015 Jan;12(1):44-53. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/ 24666464

*3 Vetter D et al. Effects of Art on Surgical Patients: A Systematic Review and Meta-anaalysis. Ann Surg. 2015 Nov;262(5):704-13. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/ 26583656

*4 Hole J et al. Music as an aid for postoperative recovery in adults: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2015 Oct 24;386(10004):1659-71. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/ 26277246

*5 Lies SR et al. Prospective Randomized Study of the Effect of Music on the Efficiency of Surgical Closures. Aesthet Surg J. 2015 Sep;35(7):858-63. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/ 26163311

コメント

    Fujita0421

    2016年05月28日 16時25分

    Fujita0421

    音楽のジャンルに関係なくこういう場合役立つのですか。これから、医療施設でいろんな種類のBGMが流れていくことになるんでしょうね。

この記事の関連ワード

新着の記事

Sidekibit b fefa1c4699a4986147a527399409cd3c5417e373a7c81d98947fd955971daf54

人工知能KIBITが、あなたに合った記事をおすすめします。 初めてKIBITに教えた時は翌朝までお待ちください。