血液検査で卵巣がんの診断ができる可能性、人工知能でマイクロRNAを解析

二瓶秋子 | 正しい医療ニュースをわかりやすく解説 第7回
ダナファーバーがん研究所のニュースリリースより

卵巣がんの検査は、画像診断や触診だけでは良性か悪性かの区別がつきづらいため、疑いがあり確定診断をおこなうためには、組織や細胞を採って病理検査をおこないます。もしも血液検査で確定診断ができれば、病理検査よりもずっと体への負担が少なくてすみます。このたび、そんな「血液検査のみでの卵巣がん診断」につながる研究成果が米国のダナファーバーがん研究所とブリガム・アンド・ウイメンズ病院(BWH)を中心とした研究グループにより報告されましたのでご紹介します。

 

Africa Studio/Shutterstock.com

 

この記事の要点

・卵巣がんは、現在の診断技術では早期発見が難しい

・卵巣がんと正常組織とでは、血中マイクロRNAの発現プロファイルが違う

・今回研究グループは、人工知能でマイクロRNAを解析し、高精度で卵巣がんを予測できるシステムを開発した

・新システムが実用化されれば、血液検査での卵巣がん診断の実現に一歩近づく

 

 

人工知能を活用して卵巣がんの早期発見を目指す

 

この研究は、米国のハワードヒューズ医学研究所、ドイツのマックスプランク協会、英国のウェルカムトラストの3つの研究助成機関によって創刊されたオープンアクセス誌「eLife(イーライフ)」で、2017年10月31日に報告され、同日ダナファーバーがん研究所のサイト上でニュースとして公開されました。

 

研究グループは、NICHD(米国立子どもの健康と人間発達研究所)、ポーランド科学財団、欧州連合、NIH(米国立衛生研究所)、米国防総省などからの助成金、その他婦人科腫瘍分野の各種研究奨励金を獲得して、「人工知能(AI)を活用した卵巣がんの確実な早期発見法の開発」に取り組んでいます。その一環として今回、卵巣がんの発症リスクに関与しているマイクロRNA(遺伝物質の一種、後述)のネットワーク予測モデルを確立しました。マイクロRNAは、血液から検出できるため、今回の成果は、血液検査での卵巣がん診断につながる可能性が期待できます。

 

より精度の高い診断ツールを開発したい

 

卵巣がんは、診断が下されるときには既に進行している場合が多く、5年生存率はおよそ25%です。一方で、予期せず早期発見できた人の生存率は、著しく高いことがわかっています。

なぜ、早期発見が難しいかというと、米国では、一般集団健診で卵巣がんのスクリーニング診断を広くおこなうための、FDA(米国食品医薬品局)に承認された方法が今のところ存在しないためです。FDAは、日本の厚生労働省に相当する役割を担っている機関で、健診に使われる検査方法等はすべてFDAの認可が必要です。

 

集団検診でなく、個人で卵巣がんの早期発見のために検査を受けると、超音波検査や、血中に含まれる「CA125」タンパク質の検出などがおこなわれます。しかし、これらの検査は、検査の精度が低く、偽陽性率(実際は卵巣がんではなかったのに「陽性」と判定されてしまう確率)が高いことが知られています。さらに、これまでの研究から、卵巣がんの早期発見のためにこれらの検査を受けていても、生存率には大きく影響しないことがわかっています。そのため、研究グループは、卵巣がんができた人を、より高い精度で早期に検出できるツールの開発に取り組んでいるのです。

 

マイクロRNAを手がかりに

 

病気の存在や進行度によって血中に出現し、測定値を指標にその病気かどうか判断できる物質を「バイオマーカー」と言います。先ほどの「CA125」タンパク質も、卵巣がんのバイオマーカーの1つです。いま、注目されているバイオマーカーに「マイクロRNA(miRNA)」と呼ばれる種類のものがあります。研究グループは、以前の研究で、卵巣がん細胞と正常細胞のマイクロRNAプロファイルが異なることを発見し、報告していました。そこで今回、マイクロRNAを手がかりとした、早期発見法の開発を試みました。

 

マイクロRNAは、ゲノムDNAから「転写」というステップを経て作られるRNAの1種です。DNAもRNAも、「核酸」という遺伝物質の仲間です。RNAとしてよく知られているのは、「メッセンジャーRNA(mRNA)」という、遺伝子からタンパク質を作る過程で使われるRNAです。マイクロRNAは、タンパク質を作らない種類の短いRNA(ノンコーディングRNAの仲間)ですが、遺伝子発現の調節(必要な遺伝子を使うときにオンにしたり、使わないときにオフにしておいたりすること)に関与する、重要なRNAです。人間には、2000を超えるマイクロRNAがあると現在は考えられています。

 

ニューラルネットワークモデルで高精度に予測

 

研究グループはまず、手術や化学療法などの治療をする前の患者さんから採血したサンプルを用いて、その人ごとにマイクロRNAセットの配列を解読しました。解析の対象となった患者さんは全部で179人でしたが、そのうちランダムに選んだ135人分を「訓練セット」、残りの44人分を「検証セット」としました。

 

次に、訓練セットに含まれる莫大な量のマイクロRNAデータを人工知能に読み込ませて卵巣がんの特徴を学習させ(機械学習アプローチ)、さまざまな解析手法で卵巣がんと良性腫瘍を精度高く区別できる方法を模索しました。その結果、「ニューラルネットワークモデル」と呼ばれる予測モデルを用いれば、マイクロRNA相互の複雑な関連性を反映して卵巣がんと良性腫瘍を精度高く区別できると突き止めました。

 

そして、135人分の訓練セットをもとに作られた予測モデルを、44人分の検証セットに対して試用し、モデルの精度を検討しました。モデルの正確性が高そうだと確認できたため、検証セットのサンプル数を拡大し、合計859人分の検証セットを対象に、モデルの精度を評価しました。

 

血液でも細胞診に匹敵する精度

 

結果、マイクロRNAを用いた新たな技術は、超音波検査よりもはるかに卵巣がんの予測精度が高いと判明しました。超音波検査で異常が見られたもののうち、実際に卵巣がんであるのは5%未満なのですが、今回のマイクロRNA診断検査で異常が見られた場合、ほぼ確実に実際に卵巣がんだったのです。

 

研究グループは、この技術の実際の診療への応用に向け、ポーランドのウッチで外科手術を予定している51人の患者を対象に、マイクロRNA診断検査による診断予測を行いました。その結果、この検査の感度(異常が認められた人が実際に卵巣がんだった割合)は91.3%、特異度(異常が認められなかった人が実際に卵巣がんではなかった割合)は78.6%でした。この値は、パップテスト(子宮頸部細胞診)の精度に匹敵します。つまり、有効な診断検査として用いられている細胞診と同じ精度の検査が、血液検査でできる可能性が示されたのです。

 

 

 

さらに、手術の前後で採血をし、マイクロRNAの量を比較して、卵巣がんを除去した手術後には、マイクロRNAのシグナルが減少することを確かめました。また、卵巣がんの組織そのものを調べ、検査に使っているマイクロRNAのシグナルが、確かにがん細胞に由来するものであると確認しました。これらにより、調べているマイクロRNAが、生物学的根拠をもってがんの識別に寄与していると示されました。

 

確定診断だけでなく一般健診での利用も視野に

 

「今回の成果は、ダナファーバーがん研究所とブリガム・アンド・ウイメンズ病院の協働による相乗効果と、基礎医学やデータサイエンスの研究者および臨床医の緊密な連携があったからこそ、得られたものです」と、本プロジェクトを統括するダナファーバー放射線腫瘍学部のディパンジャン・チョウドゥリ博士は述べています。

 

とはいえ、今回開発した診断ツールが、実際の臨床現場で使われるようになるまでには、まだクリアしなければならないステップが複数あります。その一つとして、卵巣がんリスクの上昇に伴いマイクロRNAプロファイルがどのように変化していくか、検証をする必要があります。これを調べるためには、対象となる複数の女性を長期にわたって追跡し、一定期間ごとに血液サンプルを収集させてもらわなくてはなりません。研究グループは、こうした検証を地道に一つひとつクリアして、このツールを卵巣がんの新たな診断ツールとして確立することを目指しているのです。さらに、このツールが卵巣がんリスクの高い女性に対しての検査だけでなく、一般集団検診においても有益かどうかを検討していく予定です。

 


 

参考文献

「卵巣がん診断に循環マイクロRNAの測定が有効な可能性」 海外がん医療情報リファレンス

“New Blood Test Developed to Diagnose Ovarian Cancer.” Dana-Farber Cancer Institute

“Diagnostic potential for a serum miRNA neural network for detection of ovarian cancer” eLIFE

 

 

編集者プロフィール

  • 二瓶秋子(にへい あきこ)
  • 株式会社FRONTEOヘルスケア 研究・解析課 リサーチャー。東京大学大学院医学系研究科にて博士(医学)取得。信州大学医学部、東京理科大学生命科学研究所、東京大学大学院新領域創成科学研究科など、アカデミアでゲノム医学や免疫アレルギー学関連の研究に従事。複数のヘルスケア関連情報サイトの記事編集・運営を経て現職。

連載情報

  • 正しい医療ニュースをわかりやすく解説
  • 二瓶秋子
  • 医療に関する情報は、内容が難しいと感じる方が多いと思います。この連載では、正しい医療関連情報を一般の皆様向けにかみくだいてご紹介していきます。

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