患者と話さないもう一人の主治医、病理医と病理検査とは

2017年02月14日

現役病理医おぐママの病理診断な日々 第1回

 

みなさん、はじめまして。病理医のおぐママこと小倉加奈子と申します。テレビドラマなどで目にするがんの告知には、病理医による病理検査が欠かせません。今日は、あまりよく知られていない「病理検査」と検査を行う「病理医」について、少し詳しくお話してみようと思います。

 

患者と話さない主治医?

 

医療ドラマで、主治医が「検査の結果、がんが見つかりました」と告知するシーンがありますね。検査というと、まず、血液検査やレントゲンなどの画像検査を思い浮かべる方が多いと思いますが、がん告知で登場する検査は「病理検査」と呼ばれるものです。


この病理検査は、主治医が行うものではなく、「病理医」という専門医が担当しています。病理医は、患者と一度も話したことのない「もう一人の主治医」といえます。では、病理医の仕事、「病理検査」についてさらに少し詳しくお話ししてみようと思います。

 

ベールに包まれた病理医の姿

 

昨年(2016年)初めにフジテレビで、病理医が主役の医療ドラマ『フラジャイル(※1)』が、“満を持して!”オンエアされました。長瀬智也さん演じる孤高の病理医、岸京一郎が、臨床医の診断に疑問を投じながら、病気の真相を突き止めていくストーリー。岸先生に憧れ、臨床医から病理医に転向する宮崎智尋医師を武井咲さんが好演していました。


私たち病理医は、「ついに地味な私たちにもスポットライトが当たる日が来たのね!」「風が来た~」と喜び合いました。おおげさかもしれません(笑)。

 

さて、このように徐々に注目を集めはじめた病理医なのですが、実際の病理医の姿は、いまだ一般の人から見れば、ベールに包まれたまま。その一番の要因は、病院の奥に生息していて、患者さんにほとんど会うことがないからだと思われます。

 

▲顕微鏡で検査中の様子

 

病理診断は「最終診断」

 

病理医が担当する病理検査とは、病変の一部を採取し、その細胞や組織を顕微鏡で観察する検査のことで、その診断を「病理診断」といいます。病理診断は、病変そのものを観察して下されるために、病気の「最終診断」となります。病理診断が根拠となって、病気の治療が決まることが多いので、とても重要な診断です。

 

少し例を挙げてみます。

 

風邪をひいて近くのクリニックを受診することは、みなさんも少なからず経験があると思います。


「微熱があって、咳や鼻水が出ます。」


と症状を訴えると、喉の奥を観察して胸やお腹の音を聴診した先生は、


「おそらく風邪でしょうねー、熱さましと咳止めの薬を出しますねー」


などといって、咳止めや熱さましの薬を処方してくださることでしょう。

このとき、先生は、「“おそらく”風邪」と言っています。いろいろな症状を総合的に見て、「風邪だろう」と判断しているのですね。

 

では、がんの場合はどうでしょう。

 

「おそらく乳癌みたいですから、乳房を手術で取ってしまいましょう。」


というようなことには絶対なりません。「絶対にがんである」確固たる証拠が必要です。

その確固たる証拠となるのが病理診断です。病理診断は特にがんの診断において、とても大切なのです。

 

病理医は、数回患者さんと“会って”いる

 

さきほど乳がんを例にとりましたので、乳がんの診断から治療までの流れをみてみましょう。

 

乳房にしこりがあり、乳腺科を受診したA子さん。まず外来の主治医は、A子さんの乳腺のしこりがどのような性状をしているのか、超音波検査やマンモグラフィー検査で確認します。

 

もし、がんが疑わしい場合は、しこりに針を刺して、細胞や組織を採取します。これを「生検(せいけん)」といいますが、採取された「生検検体」は、病理検査室で詳しく検査されます。細胞や組織はそのままでは顕微鏡下で観察することができないため、様々な工程を経て、染色されたガラススライド標本になります。このガラススライドを病理医が顕微鏡下で観察し、病理診断を下します。

 

 

主治医は、病理医が記載した病理診断報告書を確認し、乳がんであることをA子さんに告知。ここから治療がスタートします。

 

A子さんはこの後、主治医の先生と相談の結果、手術を受けることになります(抗がん剤などの化学療法等の治療を選択する場合もありますが、今回は手術を例にします)。乳房の一部を切除する乳房温存手術です。手術中も病理医がA子さんを「診断」します。腋の下のリンパ節にがん細胞が転移しているか否か、残した乳房の端にがんがいないかどうか、つまり、完全にがんが摘出されているかどうか等、病理医が手術中に確認するのです。これを「術中迅速病理診断」といい、手術の方針を決める大切な診断です。

 

▲術中迅速病理診断。切除した腫瘍をどう切断し標本化するか検討中。

 

また手術後は、切り取られた乳がんが病理医によってさらに詳細に検査されます。どのくらいの大きさか、どのくらい血管やリンパ管にがん細胞が入り込んで転移の可能性があるのか否か、がんは完全に摘出されているのか等々。


よく、ステージⅣで末期がんだ、などという話を耳にしたことがあるかもしれませんが、ステージ、すなわちがんの進行期分類は、通常、この手術後の病理診断で最終診断されます。


このように、乳がんの場合は、治療前、手術中、手術後と、計3回の病理検査がひとりの患者さんに対して行われているのです。

 

病理医は、患者さんの知らないところで、何度も患者さんを診察しています。患者さんのがん細胞については、主治医や患者さん自身よりもよく知っているかもしれません。私は普段、患者さんのもう一人の主治医になったつもりで病理診断をしています。時に、カルテで患者さんの訴えを読んで、涙したりすることもありますし、がん細胞を観察しながら、この患者さんの余命は、あとどのくらいだろうか、などと、患者さんやそのご家族に想いを馳せることもあります。

 

次回は、さらに病理医について違った角度からお話しします。これから定期的に、病理医から見た病気の話、医療現場のあれこれなどをお届けできたらと思っていますので、よろしくお願いします!

 

※1:『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』原作:草水敏・漫画:恵三朗(講談社)による漫画を原作としたテレビドラマ

 

病理図鑑 No. 1  ♦乳がん


 
▲乳管という母乳の通る管の中に発生した早期の乳がん(非浸潤性乳管癌)。

レンコンっぽい見た目だと思うのですが、みなさんには何に見えますか?

 

 

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