音楽で痛みがスッキリ。聴くだけで効果がある理由

2015年11月10日

聴くだけでスッキリ! Dr.藤本の「音楽は名医」(全12回) 第2回

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痛みを公式に測定するスケールは医学の世界にもまだありません。そのためひとりひとりが感じる痛みがいかほどのものであるのか、当人以外誰も正確に知ることはできず、そこがまた痛みの辛いところでもあるのですが、ひとつ覚えておいていただきたいことは病気や怪我、接触などによって起きる身体の痛みも、喪失や傷害、不安などによって起きる心の痛みも、すべて感知しているのは「脳である」という事実です。どのレベルの痛みであっても、それはすべて脳が感じているのです。

つまり、痛みを抑える、軽減させる、忘れさせる、消失させる・・・といった作業を何かで実行するためには、脳に働きかける必要があるということになります。

聴覚という感覚を通してダイレクト且つパワフルに脳に送られる音楽の刺激及び信号は、この痛みの緩和に利用することができます。音楽は新脳と旧脳の両方に働きかけることをお話しましたが(vol. 1)、音楽のような聴覚の刺激を利用して痛みを和らげることを、医学用語では“聴覚性痛覚消失”と言います。痛みの刺激を上回る別の刺激(この場合は音楽)を脳に与えることで、痛みが‟マスクされる(覆われる)”のです。

また、音楽の刺激を脳が上手に受け取ることで、さまざまなホルモンの分泌が促されます。このホルモンには、痛みを鎮めるものもあれば、落ち込んだり塞いでいる気分を改善するものもあります。加えて音楽は自律神経を整えることにも利用できるので、痛みで緊張した心や体をほぐすことにもとても有効であるということが言えます。

クラシック音楽を聴くことで刺激され活性化されるホルモン

前回、音楽の中でも特にクラシック音楽が脳に好まれるという話をしましたが、クラシック音楽を聴くことによって刺激され活性化されることを期待できるホルモンとして、「β‐エンドルフィン」「ドーパミン」「セロトニン」「アセチルコリン」などの神経伝達物質が挙げられます。

β‐エンドルフィンは痛みの治療などで使われる「モルヒネ」とよく似た作用で知られ、かつモルヒネを6倍も上回る鎮痛作用があることで知られています。また、快楽や多幸感も同時にもたらすため、通称「脳内麻薬」と呼ばれています。

エンドルフィンには「快」の感覚を与えるホルモンであるドーパミンの作用を延長させる働きもあります。マラソンなどでランナーズハイという状態がありますが、疲労や痛みがあるのに気持ちいいと感じてしまうのはエンドルフィンの効果によるものです。ドーパミンは欲求が満たされたとき、あるいは満たされることがわかった時、感動したり気持ちがよくなった時に分泌され、快感を与えてくれます。クラシック音楽の楽曲の中でも特に美しく高い音や低音から高音に向かう音がドーパミン放出を促す刺激となります。

セロトニンには、ホルモンの情報バランスを整えて精神を安定させる効果があります。別名「幸せホルモン」「自信ホルモン」と呼ばれており、セロトニンが刺激を受け活性化されることで心が安定するばかりか、自尊心と自信をもって物事に取り組めるようになれます。セロトニンには、痛みの伝達を抑えて痛みの感じ方を弱める効果もあります。

アセチルコリンは学習や記憶、睡眠、目覚めなどに深く関わる物質で、副交感神経の末端から放出されます。身体が「リラックスモード」に切り替わりますので、活性化されることで焦燥や不安から解放され、睡眠の質が向上することも期待できます。アセチルコリンが放出されることで心臓の動きをゆるやかにし、血管を広げますので、痛みによる筋肉の緊張や血行不良の解消に有効です。

音楽で自律神経を安定させる

自律神経には、「闘争と逃走の神経」と呼ばれ、主に日中活動したりストレスを感じるとき活発になる交感神経と、「平和と消化の神経」と呼ばれ主に夜リラックスしたり眠るとき活発になる副交感神経とがあります。この二つの神経のバランスがとれ、時間と状況の経過に準じた形で交互に優位になることが、身体にとって理想の状態であると言えます。

しかしながら、ある特定の痛みを身体や心に感じている間は交感神経ばかりが優位になり、副交感神経との切り替えがうまくいかない状態に陥ってしまいます。そんなときに音楽の力を有効に活用することができます。音楽を聴くことによって自律神経のバランスを整えることができるのです。

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今回監修・選曲を手掛けさせていただいたCD「聴くだけでスッキリ」シリーズの中で、一枚この「痛み」に焦点を当てたものがあります。「痛みをスッキリさせる」というテーマで選曲を行い、前半は副交感神経、後半は交換神経を意識した構成にしています。序盤は穏やかな、心拍数に近いテンポの曲で副交感神経に緩やかに働きかけ、緊張し張り詰めた心と身体に安定をもたらす意図を持っています。ハープやピアノの透明感ある美しい音色でホルモンを活性化させ、固く委縮した心と体を、氷を溶かすようにほぐしていきます。

十分にリラックスした後は、徐々にアップテンポで華やかな曲を使ってノルアドレナリンを刺激します。このホルモンは交感神経に働きかけ、気持ちを前向きにしてくれます。痛むところに回る血液を抑え、痛みを感じにくくもします。曲に集中することで自律神経が整い、最後には活力が湧き、身体がすこし軽くなったり、痛みが以前ほど気にならなくなっていることでしょう。

クラシック音楽は聴けば聴き込むほど曲への理解が深まり、脳も喜びます。他に妨げるもの、気にかかる要因をできるだけ排除し、音楽に脳が集中できる環境を整えて、時間が許せば何度でも繰り返し聴いてみてください。痛み止めの薬を常用する機会がきっと減るはずです。

次回は、痛みとの上手な付き合い方をお話します。

プロフィール

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藤本 幸弘(ふじもと たかひろ)
クリニックF院長、医学博士、工学博士

麻酔科医として勤務した痛み治療外来でレーザーによる痛み治療と出会い、レーザー専門医の道に転向。現在は主にアンチエイジング領域におけるレーザーに特化した研究を行っている。海外で精力的に研究発表を行う中、自身の趣味でもあるクラシック音楽の科学的効果についても独自に検証を行う。本年ユニバーサルミュージック社よりCD「聴くだけでスッキリ」シリーズを刊行。クリニックFでも自ら選曲を行い診療に役立てている。

参考サイト
クリニックF http://clinic-f.com/
藤本先生ブログ http://clinic-f.com/blog/

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藤本先生の聴くだけで痛みがスッキリ
薬がないときに効く一枚。美しい音色が心と体を包み込み、聴き終わるころには活力が沸いてくる構成です。痛むときはもちろん、痛みがなくても聴きたいほど選び抜かれた名演がそろっています。

選曲・監修:藤本幸弘
品番:UCCG-6163
価格:¥2,160(税込)
レーベル:ドイツ・グラモフォン
発売日:2015.06.17
発売元:ユニバーサルミュージック合同会社
http://www.universal-music.co.jp/fujimoto-takahiro/products/uccg-6163/

コメント

    ゲスト

    2015年11月12日 16時48分

    ゲスト

    歯科医院で音楽が流れているところが多いのは、嫌な機械音を誤魔化すためだと思っていましたが
    記事を読んで痛みをスッキリさせる効果も狙っているのかなと思いました。


    ゲスト

    2015年11月11日 12時50分

    ゲスト

    確かに、クラシック音楽を聞くとたいてい気持ちよくなります。憂鬱な朝でも試しにイヤホンで何か流してみると、周りの景色が違って見えたりします。嫌な気持ちがふっと明るくなることがあります。一方で、夜遅い時間に交響曲を4楽章まで聞くと興奮して眠れないことがあります。ジムで運動する時はブラームスの1番が前向きなテンポで効果的でした。

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