EPA・DHAが多く、味もおいしい魚の特徴とは?

2016年01月18日

はぐれ薬学院生(♀)の “しみる” ひととき 第8回

冬は魚の美味しい季節。これからの季節、お刺身の盛り合わせを食べるご家庭は多いと思います。せっかく食べるなら、おいしくて栄養価の高いお魚を食べたいですよね。産地や鮮度はもちろん大事ですが、他にもおいしさを左右するポイントがあります。

 

鮮度の良い魚=おいしい魚ではない。魚のおいしさを決めるのは「イノシン酸」

 

 

お魚というと、より新鮮なものを求めてしまいがちですが、実は水揚げしたてのお魚が必ずしもおいしいわけではありません。

ちょっと科学の視点で考えてみましょう。

お魚のおいしさって何だろう?と考えると、

 

おいしさ=「うまみ」+「脂ののり」ー「生臭さ」

 

にざっくり分解できると思います。それぞれについて、掘り下げて考えてみます。

まず、「うまみ」について。
食品のうまみを決める成分(うまみ成分)はそれぞれ異なります。化学調味料として使われるグルタミン酸は有名ですね。これは、昆布や野菜などに多く含まれているうまみ成分です。

お魚の場合は、「イノシン酸」がこれに当たります。

 

おいしさ=「イノシン酸」+「脂ののり」ー「生臭さ」

 

では、イノシン酸はどうやってできるでしょうか?

イノシン酸は、私たち生き物のエネルギーである「ATP」から作られます。

お魚が死ぬと、ATPは次のように分解されていきます。

 

ATP→ADP→AMP→IMP(イノシン酸)→HxR(イノシン)→Hx(ヒポキサンチン)

 

イノシン酸が途中にでてきましたね。

イノシン酸の後にあるイノシン、ヒポキサンチンには、うまみはありません。ここまで分解が進むと、お魚の鮮度が落ちたということになります。

したがって、お魚が死んでから少し経ち、ATPが分解されてイノシン酸が蓄積し、なおかつその後のイノシンやヒポキサンチンまで分解が進まない状態、これが最もうまみのある状態です。

ただし、ATPは生物のエネルギー源なので、生きている間にもどんどん消費されます。

ふつうは体が絶え間なくATPを作っているのですが、ものすごくストレスがかかったり、暴れて体力を消耗するようなことがあると、供給が間に合わくなって、ATPが減ってしまいます。そうすると、死んだあとにできるイノシン酸の量も減ることになります。

ここがポイントです。

同じ水揚げされたばかりのお魚でも、生きている時や漁獲時にかかったストレスによって、おいしさが変わってしまうのです。つまり、いくら鮮度が良くても、もともとのATPの量が少なかったらあまりおいしくないということです。

まとめると、このような式が書けます。

 

「イノシン酸」=「鮮度のよさ」—「ストレス」—「漁獲時の暴れ」

 

さて、これを元の式に代入してみましょう。

 

おいしさ=「鮮度のよさ」—「ストレス」—「漁獲時の暴れ」

+「脂ののり」ー「生臭さ」

 

 

 

 

魚の絞め方で、摂取できるEPA・DHAの量が変わる!

 

 

次は、「脂ののり」を掘り下げてみましょう。

魚にのっている脂の量は、魚の種類や産地、時期によってまちまちだと思います。

今回は、これ以外に脂ののりを左右する要素をご紹介します。

今年、Food Chemistry誌に掲載された研究では、養殖のニジマスを二通りの方法で絞めた場合、長期の冷凍保存で油分の酸化や分解がどのくらい変わるかを調べています。

その結果、魚を苦悶死(陸上に放置して窒息死させる)させた場合、比較的ストレスが少ないと言われる方法に比べて、油の酸化が早くなり、最大8倍も酸化されやすくなりました。

また、最近では健康・美容に良いとしてよく知られるようになった、「EPA」と「DHA」。これらは「オメガ3脂肪酸」といって、人間の体では作れず、食事から摂らなければいけない必須脂肪酸の仲間です。脂肪酸というくらいですから、魚油によく含まれています。この「EPA」「DHA」も、やはりお魚にストレスがかかると、壊れて減ってしまうことがわかりました。

おいしいお魚は健康面でも優れているのですね。

脂ののりについて、式にしてみます。

 

「脂ののり」=「産地」+「旬」—「ストレス」—「漁獲時の暴れ」

 

これも代入してみましょう。

 

おいしさ=「鮮度のよさ」—「ストレス」—「漁獲時の暴れ」

+「産地」+「旬」—「ストレス」—「漁獲時の暴れ」ー「生臭さ」

 

 

刺身文化を支える日本の活け絞め技術

 

 

さて、最後の要素「生臭さ」についてですが、これは血抜きが大きく影響します。

血が残ることで、生臭さが増してしまいますが、魚を獲る時に暴れさせてしまうと、筋肉中に血がまわって、うまく血抜きができなくなってしまいます。

つまり、

 

「生臭さ」=「漁獲時の暴れ」ー「血抜き」

 

さて、これも代入しましょう。

 

おいしさ=「鮮度のよさ」—「ストレス」—「漁獲時の暴れ」

+「産地」+「旬」—「ストレス」—「漁獲時の暴れ」ー「漁獲時の暴れ」+「血抜き」

 

 

いかがでしょうか。「ストレス」や「漁獲時の暴れ」が魚のおいしさにかなり影響しそうなことがおわかりいただけたかと思います。

このような要素を減らすのに大事なのが「活け締め」です。日本は生のお魚を刺身で食べる文化があり、鮮度の良い魚を手に入れる技術が発達しています。

活け締めは、お魚が元気なうちに延髄を切って「脳死状態」にします。こうすると、お魚が「死んだ」と自覚(?!)することができなくなるので、死後硬直が遅れ、無駄に暴れることがなくなります。これにより、必要以上のATPの分解を抑えることができ、市場に出回ってお店に出る頃、ちょうどうまみ成分のイノシン酸がたっぷり溜まっているようになる、というわけです。もちろん、暴れないうちに処理するので、EPA・DHAも保たれたままです。

おいしく、栄養価の高いお魚のポイントは「生きているときになるべくストレスを受けず、元気なうちに締められているか」。産地や旬だけでなく、このようなポイントもあるのです。(スーパーではなかなか分からないのが残念ですが…)

もし、料理店でお刺身を食べる時は、料理人さんがどこからお魚を出すか注目してください。客席にある生け簀から取り出していたら…それは、とってもストレスを受けたお魚です。裏からお魚を出してくれる料理店の方が、よりおいしく楽しめるでしょう。

 

 

<出典・参考文献>
FAIR TRADE FISHERY「旨い魚のヒミツ」http://www.npo-ftf.jp/delicious
G. Secci et al. Stress during slaughter increases lipid metabolites and decreases oxidative stability of farmed rainbow trout (Oncorhynchus mykiss) during frozen storage. (Food Chemistry; May 13, 2015)

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