ポルトガルの国民食材バカリャウの生産地イリャボで感じた、和食との共通点

馬田草織 | Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回) 第10回

干しだらは、ポルトガル人にとって最も重要な食材の一つ。ポルトガル語でバカリャウと言います。バカリャウ料理には、一年365日毎日食べてもレシピが尽きないほど、実際には1000以上のレシピがあると言われています。大ぶりの切り身はグリルやフライ、グラタン、茹でる、煮るなど、また細かくほぐした身はコロッケや炒め物、サラダ、スープ、ごはんの具にと、レシピを挙げたらきりがありません。

 

 

ポルトガルでは、肉を避ける精進日は干しだら料理と決まっているので、クリスマスイブや復活祭の前日など、カトリックの祝祭日の前には干しだらが飛ぶように売れます。そんな食習慣の点から考えても、干しだらはポルトガル料理を知る上で欠かせない食材なのです。

 

今回の旅のラストに、このバカリャウの一大生産地であり、ポルトガルのバカリャウの首都ともいえる、海岸沿いの歴史ある町イリャボを訪ねました。

 

イリャボには、私の友人アントニーが住んでいます。アントニーとは数年前、彼が静岡のあじの干物加工会社の仕事をリサーチしに来日した際、縁あって知り合いました。

 

初めて会った銀座の居酒屋で、彼の実家が3代に渡って干しだらを作り続けている老舗の会社だということを聞いて以来、アントニーの会社があるイリャボ行きを心待ちにしていました。なんたってイリャボは干しだらのメッカ、ポルトガルの食を知るための、聖地巡礼のようなものなのです。

 

イリャボはアヴェイロのすぐ南にある海沿いの町です。地図で見るとわかりやすいのですが、一帯は、海岸から少し入ったところに大きく縦長に広がるラグーン(潟)になっていて、船の出入りがしやすく、また肥沃な潟のおかげで魚介類が豊富に獲れる土地というわけです。

 

市が紹介するこの地の歴史によると、ここはかつて古代フェニキア人、ギリシャ人、ローマ人など多くの航海者が居留したそう。ちなみにイリャボの女性は昔から美しいことでも有名で、紀元前400年前に暮らしていたギリシャ人の影響では、とも。また、アントニーの会社の社長でもあるお父さんの話では、かつては北欧のバイキング船とも交流があったそうな。というわけでイリャボは、今も昔も漁業の一大拠点なのです。

 

会社を見に行く前にふらりと入った地元のカフェ兼食堂兼酒場でもある店は、昔ながらの漁船の模型や道具など、漁業に関するアイテムが所狭しと飾られていて、イリャボの町を分かりやすく表現していました。

 

 

工場を訪ねたのはお休みの日曜日でしたが、アントニーとお父さん、さらに家族や友人もみんなで案内してくれました。大勢でワイワイ賑やかで、なんだかリラックスした社会科見学のよう。アントニーの親戚や友人達も、普段何気なく食べているけど実はよく知らない干しだらの話を、アントニーのお父さんから聞いては頷いていました。

 

 

 

海に近い大きな工場は、加工と保存でフロアが分かれています。保存のフロアは壁一面に干しだらがぎっしり積まれ、まさに圧巻です(写真左)。かすかに潮の香りや干した魚の香りを感じ、空気はひんやりと冷たい。完成間近の干しだらも、奥の専用棚に整然と並んでいました(写真右)。

 

干しだらは、脂の乗りや身の厚みでランクがあり、価格にも差があります。最も大きく身の厚いものは、大人がひと抱えするようなものもあって、小柄な私にはどうやって持ち帰っていいか悩む様な大きさのものもたくさんありました。

 

 

アントニーのお父さんはポルトガル干しだら騎士団のメンバー。この日は正装で案内をしてくれました。ヨーロッパ各国には、チーズ騎士団、ワイン騎士団、オリーブオイル騎士団など、食材の魅力をより多くの人に伝える役割を認められた人への称号がいろいろありますが、ポルトガルにはなんと干しだらの騎士団まで!さすがは国民食です。

 

なお、現在ポルトガルで消費されている干しだらは、ほとんどが北欧ノルウェー沖で獲れる大西洋真鱈です。獲ったそばから船上で鱈をさばき、大量の塩で漬けていきます。

 

まだ冷蔵庫のない15~16世紀の大航海時代、獲った魚を唯一保存しておける手立てが塩蔵で、干しだらは、その流れをくむ保存食。写真では、とにかく大量の塩に鱈が埋もれているような感じ。そのままポルトガルまで運び、きれいに並べて天日干しにし、武器のような固さになるまでカンカンに乾かします。

 

もっとも、最近はEUの規定で野外での乾燥が禁止され、日本の干物のように、屋内での人工的な乾かし方がメインになっています。少し前まで使っていたという昔ながらの干場を見せてもらうと、緑の芝が生えた広い敷地に木と縄で作った干し棚がありました。

 

 

EUの決まりはさておき、これって実にエコロジカルで持続可能なシステム。あじの干物作りにおける天日干しと同じです。ポルトガルにもあじの干物があり、ポルトガルと日本は食習慣が近いと本当に感じます。

 

 

完成した干しだらは、料理で扱いやすいように専用のカッターで切り分けられます。

 

 

この日は社長から、干しだらの切り身、さらに珍しい舌や浮袋をお土産にいただきました。舌や浮袋は、地元の人が昔から食べている部位。一般にはあまり売られていないのですが、食感がおもしろく、地元ならではの料理で楽しまれています。

 

 

舌や浮袋がどんな風に食べられているのか、気になりますよね。イリャボからすぐのアヴェイロの友人の家に戻り、早速料理を教えてもらいました。

 

 

左の鍋が、干しだらの浮袋を使ったフェイジョアーダ。フェイジョアーダはブラジルの料理というイメージが強いですが、もとはポルトガルからブラジルに伝わった料理。白いんげん豆をはじめ、玉ねぎやにんじん、ポルトガルの腸詰ショリッソなどに、スペシャル食材干しだらの浮袋を加えて煮込んでいます。フェイジョアーダは、ご飯にかけていただくのが基本です。

 

干しだらの舌はフリットに。粉を付けて卵にくぐらせ、油で揚げます。ね、ポルトガル料理って、やっぱり日本の和食と通じるものがあります。

 

ご存知の方も多いと思いますが、天ぷらは、南蛮文化とともにポルトガルから伝わったフリットが元とも考えられていて、語源はポルトガル語のテンペラ―ル(味付けする)や、肉を避けるカトリックの精進日クアトロ・テンポラシュ(四旬節)からきているのでは、と言われています。

 

ポルトガルのフリットは衣や具に味を付けていることが多く、そんな点は、長崎で食べる味の濃い長崎天ぷらと共通するなあと感じるのです。

 

さて、駆け足ではありましたが、ポルトガルのワインや食文化をご紹介する旅の話は今回で終わりです。ポルトガルの食文化にご興味を持たれたという方は、ぜひ都内で開催中の料理教室「ポルトガル食堂」へ遊びに来てください。ポルトガルの料理とワインを楽しむ気軽な食事会です。スケジュールなど詳細は、こちらをご覧ください。

 

では、またどこかでお会いしましょう!

 

イベント情報:「ポルトガル食堂」出張ワインバー開店!


東京・台東区のカフェ「鳥越T(ティー)」にて、「ポルトガル食堂」が一日限りのワインバーをオープンします。

 

日時:2017年12月23日(土)14:00-18:00
場所:〒111-0054 東京都台東区鳥越2-5-1 恵比須ビル1F 鳥越T Google map


ポルトガル各地を旅して出会った、センス溢れるラグや靴下、かご、お皿やカップなどの器、ノートやポスターなどのペーパーアイテムなどを販売する CASTELLA NOTE(カステラノート)との共催です。商品の展示を見ながら、ポルトガルのワインを気軽にお楽しみいただけます。さらに、ポルトガルの食とワインにまつわるショートセミナーも2回開催。詳細およびお申し込み方法はこちらから。

 

著者プロフィール

  • 馬田草織(ばだ さおり)
  • フリーランス編集者・ライター。上智大学文学部卒業後、出版社に勤務。女性誌編集部を経て独立。専門誌「dancyu」や女性誌、書籍、WEBなどで食を軸に幅広く活動中。素朴で親しみやすいポルトガルの食文化に魅かれ、一般家庭のキッチンからレストランの厨房、ワイナリーなどを訪ね取材を続けている。旅で教わったレシピをおすそ分けする、ポルトガルの家庭料理とワインを楽しむ料理会「ポルトガル食堂」も都内で定期的に開催中。最新情報:http://badasaori.blogspot.jp/
    書籍情報:『ようこそポルトガル食堂へ』(産業編集センター、2008年) 『ようこそポルトガル食堂へ』(増補改訂版・幻冬舎文庫、2014年) 『ポルトガルのごはんとおつまみ』(大和書房、2014年) 

連載情報

  • Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回)
  • 馬田草織
  • ヨーロッパの西南端にある国、ポルトガルを訪ねたことはありますか?日本からは飛行機を乗り継いで20時間近くかかる遠い国ですが、文化的には実はとても近く、深い縁があります。私は仕事で旅するうちに、じわじわとポルトガルの魅力に引き込まれていきました。ポルトガルのどんなところが魅力的なのかを、旅人目線ですこしずつ、みなさまにご紹介していけたらと思っています。※Saude!(サウードゥ)は、ポルトガル語で「乾杯!」の意味です。

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