ヴィーニョ・ヴェルデを知る旅(8)港町アヴェイロでシーフードを満喫

馬田草織 | Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回) 第9回

ポルトガル最北端のミーニョ地方のワイナリーを訪ねた後、北の大都市ポルトで珍妙かつ忘れられない初夏の祭りを夜通し体験した前回。今回は友人が住む町を目指して、少し南へ向かいます。

 

町の名はアヴェイロ。大西洋沿いで肥沃な潟を抱え、その恵まれた環境のおかげで昔から漁業の盛んなシーフード天国。同時に、彩色タイルのアズレージョが印象的な町でもあります。

 

中心を流れる運河には、モリセイロと呼ばれる赤や黄や青でカラフルにペイントされた小舟が泊まっていて、そのビビッドで可愛らしい色使いや、いかにも昔ながらの素朴な柄に、ポルトガルらしい魅力を感じます。観光客の多くが思わず立ち止まって写真を撮って行くのも、頷けます。

 

 

運河を渡った旧市街の一角は、何度訪ねても飽きない私の好きなエリア。家の壁、店の壁、教会の壁とあらゆる壁面がさまざまな色や柄のアズレージョで彩られていて、いつ訪ねても絵になる町なのです。

 

あちこちで目にする壁のタイルは、数百年も経ったビンテージものから、最近メンテナンスされたばかりのものまで新旧入り混じっていて、それが町の人の生活と密に関わっています。美しい装飾の役割も持ちつつ、汚れなどが直接建物に付きにくいようにするという、実用性も兼ねています。

 

 

決して観光客向けに体裁を整えたのではない、町の人の生活の中に溶け込んでいるアズレージョの景色は、まさに生きた景色。住民が、何の気なしに鮮やかな色の壁の前を行き来する様子を眺めていると、その在り方がちょっと詩的にすら感じます。

 

旅人ならではのややセンチメンタルな感覚かもしれませんが、とてもポルトガルらしい眺めだと感じるのです。気が付くといつも膨大な量の写真を撮ってしまいます。

 

 

この日は町の祭りの時期でもあったようで、通りの上の方には網が渡らされ、手作りの魚などのモチーフが飾られていて、これまた可愛らしい様子でした。

 

ちなみに、ポルトガルの歩道は白と黒のタイルで模様が描かれていることが多く、このアヴェイロは特に魚や貝、あるいは波などの、いかにも海沿いの町らしい絵柄を見ることができます。

 

町の市場をのぞくと、とれたての新鮮な魚介類が所狭しと並んでいます。大抵は女性が店を仕切っていて、ポルトガルの市場はこのアヴェイロに限らず、市場を仕切る多くが女性です。

 

日本でおなじみの鯵や鰯、海老や蟹、鯛の仲間や、あるいは見たことのない、いかつい顔で迫力のある長い黒太刀魚や、この地域の特産でもあるうなぎなども、くねくねと動きながら並んでいます。それらを前に、どうやって食べるのかとしばし考えていると、市場の女性たちが、魚を指差しながら食べ方を教えてくれるのです。

 

また、いかにもポルトガルらしいのは、カルディラーダという料理用に、様々な魚の切り身や貝類がミックスで量り売りされているコーナー。

 

 

ポルトガルのブイヤベースとも言えるカルディラーダは、旬の魚介と玉ねぎ、じゃがいも、トマト、イタリアンパセリといった野菜だけで作る、海の幸のスープ。水を一切加えずに、素材の水分だけでスープにするのが最大の特徴です。

 

市場には、カルディラーダ用に魚の切り身の盛り合わせが必ずと言っていいほど売っていて、そのミックス具合はなんとなく日本の寄せ鍋セットにも似ています。でも、こちらはパックに入って整然と並べられているのではなく、様々な切り身類が賑やかに積まれ、しかもキロ単位での量り売りです。

 

ポルトガルは家庭料理でも、一度に作る量が多いのです。

 

着いた日の夜は、早速シーフードを目当てに友人おすすめのレストラン「オ・ガファニョート」へ。開いたメニューには旬の魚を使った料理がずらりと並んでいて、いつもあれこれ頼みすぎてしまうのが悩ましくもあり。この日も、何を食べるかを楽しく悩みながら決めました。


前菜は、軽くつまめるものをいくつか。印象的だったのが、たらこを茹でて薄切りしてパンに乗せ、みじん切りしたにんにくを散らして新鮮なオリーブオイルをまわしかけたものと、

 

レモン汁で締めた鯖と薄切りした玉ねぎをパンに乗せ、オリーブオイルをまわしかけて黒こしょうとピンクペッパーを挽いたものの2つ。

 

たらこも鯖も、どちらも日本人に馴染みのあるものですが、調味も調理も全く違っていてとても面白い。ピリリとにんにくが利いたたらこや、レモン風味で締めたさばの味わいは、まさにワインを呼ぶものでした。ところ変われば、ですね。

 

メインはスープ系。スープといっても、ポルトガルの魚介を使ったスープは市場で見たように具だくさんで、それだけでおなかがいっぱいになるボリュームです。メニューを睨みながら市場でも見たカルディラーダと迷いましたが、今回はお店の主人のおすすめもあり、旬のはたやすずきを使ったエンソパードにしました。

トマト風味のスープに、たっぷりの魚。そして、何も言わずとも、もれなく茹でたじゃがいもが付いてきます。これは焼き魚などでも同じ。パンは付いたり付かなかったりですが、茹でたじゃがいもは必ず付いてきます。主食はパンというのは建前で、本当はじゃがいもなんじゃないかと毎回疑ってしまいます。

 

そして、締めは米料理アローシュ・デ・ベルビガオンにしました。ベルビガオンという、あさりより小さくしじみより厚みのある、白くて小さい貝の濃厚なだしを、米にたっぷり吸わせたリゾットのような料理。あまりのだしの味の良さに、どうやって作るのかと主人に聞いて、調理場をのぞかせてもらいました。玉ねぎとにんにく、ベルビガオン、米と、材料は非常にシンプル。でも、本当に印象的な、忘れられない味でした。

 

さて、このシーフード天国アヴェイロからほど近い海岸沿いに、ポルトガルの食材に欠かせない、干しだらの一大生産地があります。

 

翌日は、3代にわたって干し鱈を作り続けている、友人アントニーの干しだら会社を訪ね、実際に干しだらを作っている工場を見学させてもらいました。そのお話は、また次回に!

 

プロフィール

  • 馬田草織(ばだ さおり)
  • フリーランス編集者・ライター。上智大学文学部卒業後、出版社に勤務。女性誌編集部を経て独立。専門誌「dancyu」や女性誌、書籍、WEBなどで食を軸に幅広く活動中。素朴で親しみやすいポルトガルの食文化に魅かれ、一般家庭のキッチンからレストランの厨房、ワイナリーなどを訪ね取材を続けている。旅で教わったレシピをおすそ分けする、ポルトガルの家庭料理とワインを楽しむ料理会「ポルトガル食堂」も都内で定期的に開催中。最新情報:http://badasaori.blogspot.jp/
    書籍情報:『ようこそポルトガル食堂へ』(産業編集センター、2008年) 『ようこそポルトガル食堂へ』(増補改訂版・幻冬舎文庫、2014年) 『ポルトガルのごはんとおつまみ』(大和書房、2014年) 

連載情報

  • Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回)
  • 馬田草織
  • ヨーロッパの西南端にある国、ポルトガルを訪ねたことはありますか?日本からは飛行機を乗り継いで20時間近くかかる遠い国ですが、文化的には実はとても近く、深い縁があります。私は仕事で旅するうちに、じわじわとポルトガルの魅力に引き込まれていきました。ポルトガルのどんなところが魅力的なのかを、旅人目線ですこしずつ、みなさまにご紹介していけたらと思っています。※Saude!(サウードゥ)は、ポルトガル語で「乾杯!」の意味です。

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