ヴィーニョ・ヴェルデを知る旅(7)鰯には赤、祭りの前のにぎやかなポルト

馬田草織 | Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回) 第8回

ポルトガル最北端のミーニョ地方で、世界で唯一の“緑のワイン”と呼ばれるヴィーニョ・ヴェルデを巡る旅。ミーニョ地方のワイナリーをいくつも訪ね終えたスタディツアー最終日の夕方に、ポルトガル北部の大都市、ポルトへ戻ってきました。6月23日は1年で一番街が騒がしくなるサン・ジュアン祭りの前夜祭。夕方から徐々に祭りの賑わいが始まり真夜中の12時が最高潮、街中が夜更かしし、翌日24日が本当の祝日、というのが毎年の祭りの流れだそう。

 

ポルトの市民はもちろん、この日は海外からも観光客が押し寄せて、ハチャメチャに賑やかな夜が待っているとのこと。どんな感じなんだろう、なにやら凄そうです。ツアーを一緒に回った仲間たちと一緒に、夜のポルトに繰り出すことにしました。

 

 

夕方7時ごろ、ホテルを出て町へ出発。まだ明るい中、祭りの中心地となるドウロ川界隈のリベイラ地区を目指し、プラプラと歩き始めます。既に道の両脇には、この時季からだんだん美味しくなる鰯の炭火焼の屋台があちこちに出ていて、いい香りに誘われます。

 

鰯の塩焼きは、ポルトガル人のソウルフード。焼いた鰯はパンにのっけて、歩きながら食べるのが祭りのときのスタイル。あるいは、通りに並べたテーブルに座り、茹でたジャガイモやグリルしたピーマンと食べたり。もちろん、傍らにはワインが欠かせません。そうそう、ポルトガルでは鰯には赤です。早速グラスで頼んで合わせてみると、鰯の脂と赤の果実味がなるほどいい感じ。

 

さて、まだこの祭りの凄さを知らない私達。食事は「そのうちどっかで」なんて思ってました。しかし甘い!甘過ぎました。あっちもこっちも人だらけで最高潮に盛り上がる祭りの夜に、“どっか”の席が開いてるわけない!祭りの前は、お腹が空く前に適当にさくっと食べるのが大正解です。次回の祭りから、食事は先にしよう、そうしよう。

 

 

日が暮れ始めるころにはあちこちから人が集まってきて、通りはがやがやと賑やかになります。小さなピコピコハンマーを売る屋台もあちこちに出ています。そう、この祭りの最大の特徴のひとつが、このプラスチックハンマー。みんな手に手にハンマーを持ち、通りすがりのまったく知らない人の頭をポカスカたたき合うというもの。酔っていてもいなくても、大人でも子どもでも、ポルトガル人でも外国人でも、とにかくポキュポキュ音を出しながら、挨拶代わりにたたくのです。

 

ちなみに昔は、魔よけの意味も込めて、にんにくの花で顔をなでていたそうです。それが1960年代にプラスチックのおもちゃに取って代わったというわけ。今でも稀ににんにくの花を持っている人がいますが、これはにおいが凄い!たまりません。悪魔じゃなくても逃げますよ。

 

 

その点、プラスチックは可愛いもんです。ほら、こんな感じで早速狙われます!可愛い女の子やかっこいい男性だとなぜか嬉しくなります。もちろん、叩かれたら素早くお返し。優しくね。そうやって、段々みんな戦いの本能を徐々に刺激し合い、いつの間にかテンションが上がっていくのです。

 

ちなみにこの日はハンマーでたたき合うだけでなく、紙のランタンを空に飛ばす人もあちこちにいました。願いを込めて、ひとつ、また一つと夜空に飛ばす姿は、詩的で情緒があります。夜の空には、いくつものランタンの光が浮かんでいます。それぞれには、どんな願いが込められているのでしょう。それをぼんやり眺めていると、後ろからハンマーでポキュッと叩かれる、なんとも笑える、楽しいお祭りです。

 

 

そうこうしているうちに、ドウロ川に向かう通りはどこも人で満ちて、祭りはそろそろ本番の気配。すっかり食べそびれた私は、ひたすらビールやワインを屋台でお代わり。すきっ腹にしみるアルコールでもはや上機嫌です。あとはどこかでひと踊りできればいいや、という気分。時刻は夜10時過ぎ。いつの間にか、一緒にいた仲間たちとははぐれてしまいました。

 

気が付くと、ドウロ川沿いは人だらけ。そしてみんな嬉しそうにハンマーでたたき合う!

 

叩き合い最高潮の真夜中12時、ドウロ川のドン・ルイス1世橋をバックに賑やかな花火が次々と打ち上げられます。観衆は絶叫、ひたすら楽しい!

 

 

花火が終わっても、まだまだ帰る様子はなく、大人も子供も大はしゃぎ。そして、次第にゆっくりと、祭りは終焉へ。坂道の多いポルトですが、石畳の坂道はいつしか家路につく人でぎっしり。時間は26時ごろ、私もくたくたです。

 

 

夜中まで騒いだら、帰って昼までぐっすり寝るというのが、翌日の祝日の正しい過ごし方のようです。もちろん私もそうでした。

 

想像を絶するハンマー祭り、じゃなくてサン・ジュアン祭り。チャンスがあったら参加する価値あり。きっと忘れられない面白い経験になりますよ。ただし、食事は早めに済ませましょう!

 

著者プロフィール

  • 馬田草織(ばだ さおり)
  • フリーランス編集者・ライター。上智大学文学部卒業後、出版社に勤務。女性誌編集部を経て独立。専門誌「dancyu」や女性誌、書籍、WEBなどで食を軸に幅広く活動中。素朴で親しみやすいポルトガルの食文化に魅かれ、一般家庭のキッチンからレストランの厨房、ワイナリーなどを訪ね取材を続けている。旅で教わったレシピをおすそ分けする、ポルトガルの家庭料理とワインを楽しむ料理会「ポルトガル食堂」も都内で定期的に開催中。最新情報:http://badasaori.blogspot.jp/
    書籍情報:『ようこそポルトガル食堂へ』(産業編集センター、2008年) 『ようこそポルトガル食堂へ』(増補改訂版・幻冬舎文庫、2014年) 『ポルトガルのごはんとおつまみ』(大和書房、2014年) 

連載情報

  • Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回)
  • 馬田草織
  • ヨーロッパの西南端にある国、ポルトガルを訪ねたことはありますか?日本からは飛行機を乗り継いで20時間近くかかる遠い国ですが、文化的には実はとても近く、深い縁があります。私は仕事で旅するうちに、じわじわとポルトガルの魅力に引き込まれていきました。ポルトガルのどんなところが魅力的なのかを、旅人目線ですこしずつ、みなさまにご紹介していけたらと思っています。※Saude!(サウードゥ)は、ポルトガル語で「乾杯!」の意味です。

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