ヴィーニョ・ヴェルデを知る旅(6)スペイン国境で味わう高貴品種アルヴァリーニョ

馬田草織 | Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回) 第7回

ポルトガル最北端のミーニョ地方で、世界で唯一の“緑のワイン”と呼ばれるヴィーニョヴェルデを巡る旅の記録。緑のシュワシュワしたワインを軸に、次は最も北にある地域を訪ねます。

 

ミーニョ地方の名の由来でもあるミーニョ川は、スペインガリシア地方メイラ山地を水源に、あるところでは対岸の人の様子がわかるほど狭く、あるいは船で渡るほど広くと、うねりながら流れ、やがて350キロの旅を経て、大西洋の海原へと注がれます。

 

スペインガリシア地方との国境にもなっていて、川向こうのガリシア地方は、実はミーニョとよく似た方言を話すそう。育てているぶどうも共通の品種があります。それは、アルヴァリーニョという高貴品種。冷涼な地域のぶどうらしく、味わいの核になる酸のキレが特徴で、なおかつ寝かせて熟成を楽しめるふくよかさもあります。

 

 

ヴィーニョヴェルデは作ってすぐ飲む早飲みタイプが多い中、アルヴァリーニョだけが、ゆっくり寝かせて豊潤さを期待できるという特別な品種なのです。そのため、このぶどうを話すときの生産者の誇らしげな顔と言ったら、それはもう嬉しそう。この土地の人に話をうかがっていると、いかにこのぶどうを育てる喜びをいつも感じながらワイン造りをしているのかが、本当によく伝わってくるのです。

 

またポルトガルの場合、ミーニョ地方の中でもモンサオンとメルガソという2つの地域で育てたものだけが、ヴィーニョヴェルデ協会の認める正統派アルヴァリーニョとされ、ラベルにアルヴァリーニョと記載することを許されます。ちょうど日本で魚沼のこしひかり、越前の蟹、氷見の寒ブリといえば誰もがピンとくるように、ポルトガルでもモンサオンとメルガソのアルヴァリーニョは特別なのです。

 

そんなアルヴァリーニョを味わいに私が訪ねたワイナリーは、モンサオンにある「ソラール・デ・セラーデ」。ここはワイン畑と宿が同じ敷地内にあり、ワインを味わいながら旅が楽しめるワインツーリズモの施設でもあります。

 

 

宿は17世紀半ばに貴族が建てたという屋敷。堅牢な外観や味わいのある内装のほとんどは当時の雰囲気を残しつつ、個室は心地よく過ごせるように水回りを一部改装し、清潔感がある、こぢんまりとしたマナーハウスらしい設え。

 

 

何より、ここは周辺がワイン畑に囲まれ、その先は林や森、さらに少し先を行けばミーニョ川。格段に空気がおいしい、マイナスイオンたっぷりの地域なのです。

 

このワイナリーで指揮をとっていたのは、ワイン醸造家のアントニオ・ソウザさん。アルヴァリーニョをよく知る彼の話をうかがいながら、畑を回りました。

 

 

この畑で最も特徴的なのは、花崗岩の石柱。この一帯は花崗岩の採掘も採掘場も多く、昔からぶどうの木の支柱代わりに花崗岩の柱が使われてきたのだそう。確かに、この辺りの建物はどれも、花崗岩を積み上げた堅牢な造りが多いのです。

 

でも、石柱がぶどうの木を支えているという畑を見たのはこれが初めて。最初はごっつい柱に驚きましたが、自然が自然を支えている様子はとても気持ちがいいし、美しい。ぶどうの生育状態を示唆するバラも一緒に植えていて、とても絵になる畑です。

 

 

また畑の一部は、昔ながらの棚栽培「ラマダス」をしている場所もありました。日本のぶどう農家のような、横に蔓を這わせて広げる作りです。屋根のように平らにぶどうの蔓を張り巡らし、その下はじゃがいもやキャベツなどの野菜畑という、効率的な土地活用ができる栽培法で、昔は主流だったそう。

 

少ない土地の保有しか認められなかったかつての農民が、野菜とぶどうを一緒に育てるために編み出した技。ワインはポルトガルの食文化の欠かせない一部だということが、このラマダスを見るとしみじみ感じるのです。

 

宿に戻り、夜はこの畑から生まれたさまざまなワインを試飲しました。なにしろここは、造っているワインの9割がアルヴァリーニョ。だから、いかにアルヴァリーニョの個性を引き出して、おいしく仕上げるかにこだわっているのです。

 

 

アルヴァリーニョ100%のものから、ごくわずかに他の品種を加えて、糖や酸のバランスを取ったもの、育ちの良いブドウだけを選んで作った特選、小樽で発酵させた果汁と果皮を1年間醸すもの、あるいはエシュプマンテ(スパークリング)に仕上げるものや、面白いものでは、熟しきるぎりぎりまで待って遅く収穫し、発酵も通常より時間をかけるという、ブランデーのような風味を持つものまでありました。

 

ちなみにここでは、夕食に出していただいた料理がなぜかパエリヤ。とても美味しいのですが、どうしても違和感が否めません。「これ、ポルトガル料理じゃないでしょ!」と食卓にいた全員で一斉に突っ込むと、調理を担当してくれた奥様がスペイン出身の方だったことが判明。

 

 

結婚してポルトガルに嫁いだ彼女を「ポルトガル人とスペイン人をミックスした、ポルトニョルなのさ」と夫が嬉しそうに紹介していました。

 

ポルトガルの、それも北の果てで、まさかこんなにゴージャスなパエリアに出会えるとは。嬉しかったけど、でも、できたらポルトガル北部らしい料理、食べたかったなあ。アルヴァリーニョのヴィーニョヴェルデと突然のパエリアで、なんとも印象的な夜になりました。

 

著者プロフィール

  • 馬田草織(ばだ さおり)
  • フリーランス編集者・ライター。上智大学文学部卒業後、出版社に勤務。女性誌編集部を経て独立。専門誌「dancyu」や女性誌、書籍、WEBなどで食を軸に幅広く活動中。素朴で親しみやすいポルトガルの食文化に魅かれ、一般家庭のキッチンからレストランの厨房、ワイナリーなどを訪ね取材を続けている。旅で教わったレシピをおすそ分けする、ポルトガルの家庭料理とワインを楽しむ料理会「ポルトガル食堂」も都内で定期的に開催中。最新情報:http://badasaori.blogspot.jp/
    書籍情報:『ようこそポルトガル食堂へ』(産業編集センター、2008年) 『ようこそポルトガル食堂へ』(増補改訂版・幻冬舎文庫、2014年) 『ポルトガルのごはんとおつまみ』(大和書房、2014年) 

連載情報

  • Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回)
  • 馬田草織
  • ヨーロッパの西南端にある国、ポルトガルを訪ねたことはありますか?日本からは飛行機を乗り継いで20時間近くかかる遠い国ですが、文化的には実はとても近く、深い縁があります。私は仕事で旅するうちに、じわじわとポルトガルの魅力に引き込まれていきました。ポルトガルのどんなところが魅力的なのかを、旅人目線ですこしずつ、みなさまにご紹介していけたらと思っています。※Saude!(サウードゥ)は、ポルトガル語で「乾杯!」の意味です。

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