ヴィーニョ・ヴェルデを知る旅(5)祈りの町ブラガ近郊のワイナリーで偶然の再会

馬田草織 | Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回) 第6回

ポルトガル最北端のミーニョ地方で、世界で唯一の緑のワインと呼ばれるヴィーニョヴェルデを巡りながらワイナリーを旅しているお話の続きです。

 

2日目は宿泊したワインツーリズモ・モンヴェルデを出発し、ブラガという都市を訪ねました。ブラガは別名、祈りの町。中世から近世にかけてはポルトガル一の宗教都市として栄えた歴史があり、郊外にはキリスト教の巡礼地ボン・ジェズスという聖地もあります。

 

信心深い人は祈りを唱えながら、長い階段を膝で上って丘の上の教会を目指すのだそう。カトリック国であるポルトガルの中でも特に宗教色を感じる歴史都市で、古い歴史を持つ教会も多く、各国から観光客も訪れます。

ちなみにポルトガル国内の都市は、例えば首都のリスボンなら政治、ポルトは商い、コインブラは学び、そして祈りのブラガという具合に、都市の特徴がキャッチフレーズのように言われています。

 

この日のブラガは、翌々日の聖ジョアン祭を前に街全体がなんとなくそわそわしていて、住民の心はすっかりお祭りモードの様子。朝、ブラガのお役所を表敬訪問して市長にもお会いしたのですが、役所の皆さんのお話も、ブラガの歴史や、もうすぐ始まる祭りを語る様子が祭りを前に盛り上がる気構えに満ちつつ、熱さを秘めて静かに時を待っているような、そんな感じでした。

 

町のメインストリートにあるカフェでは、民族衣装を着た人達が北部ミーニョ地方の音楽を奏でながら、さながら祭りのウォーミングアップをしているかのよう。北部特有の、手縫い刺繍がほどこされた衣装は見ているだけでも楽しいけれど、それを人が実際に着ていると、ますます魅力的です。みんな銘々がクラリネットやギター、アコーディオンなどを演奏したり、あるいは高らかに歌ったりと、とても様になっていて、道行く観光客も盛んに写真を撮っていました。もちろん私も。

 

 

通りの脇には、聖ジョアン祭で昔は大活躍したというにんにくの花もスタンバイしていました。今も多少は需要がある様子です。このにんにくの花がどんな風に祭りで活躍していたのかは、後ほどお伝えするポルトでの祭りの様子で詳しく触れます。

 

それにしてもこの花、到底あんな強烈な香りがするなんて思えないような、可憐な色と姿。実は毒のある、ミステリアスな少女のようにも見えました。

 

こんなふうに祭りの準備で賑わうブラガを通り抜け、次のワイナリーへ向かいます。

 

 

昼前に到着したのは、ブラガ近郊にあるワイナリー「キンタ・デ・オメン」。こちらのワインの醸造責任者は女性と聞いて、どんな方なのかとても楽しみにしていました。

 

というのも、4年ほど前に、ポルトガルの友人とヴィーニョヴェルデを巡って旅していた時、ポンテ・デ・リマという町のワイナリーで、社長をはじめ営業や醸造の現場でも女性がたくさん活躍するワインメーカーに遭遇し、ランチの時にみなさんととても楽しい時間を過ごした思い出があるからです。

 

女性が集まると、会話がより自分に近いところで広がるというか、例えばワインを語る時も、ワインの味や造りの話が一人歩きするというよりは、どう飲むか、どんな食事と合うかなど、食卓を整える人の目線で語られることが多いので、ワインをぐっと身近に感じることができ個々人の等身大の意見がたくさん交わせます。さらには、女性特有の脱線話がこれまた面白い。

 

今度のワイナリーではどんな方が活躍しているのだろう、玄関で迎えてくれた女性醸造家を一目見て、あれ、どうも初めてじゃない気がします。この方、どこかで出会ったような気がする。どこだっけ……。

 

スタディツアーでの参加でしたから、まずは他の方々と一緒にワイナリーの説明を聞きます。ちょっとオフィシャルなスタートですから、いきなりあなたって、とプライベートな質問はできません。でもその間も、この女性醸造家のことが気になって仕方がない。絶対この女性と会ってる、お話しした覚えがあるぞ、はてどこだっけ。でも、このワイナリーに来たことはないし。ってことは、職場を変えた?

 

いろいろと想像しながら、ワインのテイスティングを重ねます。

 

 

このワイナリーでは、特にぶどうの個性が引き立つように意識していました。高貴品種のアルヴァリーニョはもちろん、香り豊かで繊細なロウレイロ、高い酸と柑橘のアロマが生き生きした印象をもたらすアリント、あるいはこの地固有の土着品種エシュパデイロで造るロゼなど、ミーニョ地方のぶどうの魅力を味わえるラインナップです。

 

 

さらにはランチタイムということもあり、ミーニョ地方らしいお料理、たことげんこつじゃがいものオリーブオイル焼き「ポルヴォ・ア・ラガレイロ」をワイナリーの料理上手な女性に作っていただきました。

 

げんこつじゃがいもというのは、文字通り茹でたじゃがいもをげんこつでパンチして、オリーブオイルや塩、ニンニクなどの味が染み込みやすくしたもの。たっぷりのオリーブオイルでグリルしたたこは柔らかく、素材の味が存分に楽しめるこの料理は、酸がしっかりしたヴィーニョヴェルデにぴったり。

 

ところで、気になっていたのがワイン醸造家の彼女。そうだ、思い出した!それこそ、数年前のポンテ・デ・リマでワイン醸造家の卵として働いていたアナじゃない?

ちょうどランチの席が目の前になったので、早速アナに聞いてみます。

 

「私、数年前にポンテ・デ・リマであなたにワインの取材をさせてもらったことがあるんだけど、覚えてる?」

「あ、覚えてる!あなたポルトガル人と二人で来て、社長やみんなでランチしたわよね。お互い小さい子供がいるって話しをしたりして」

「そうそう、じゃ、晴れて独立したってわけね」

「そうなの。私がここの醸造責任者なのよ!」

「よかったね、おめでとう!」

 

ランチの時間もワイナリーでの滞在時間も限られていたので、近況を伝え合いながらあっという間に時間は過ぎ、ワイナリーを散策しながらも話しは途切れることなく、しまいには記念写真も撮ってちょっとした盛り上がりとなりました。

 

 

ワインの材料であるぶどうは自然にその育成を委ねますが、摘んでからワインにするまでは、人の手と想いが加わります。ワインを飲む人が感じる味には、そんな背景となる人や土地への想いも加わります。

 

私が東京でアナのワインを飲むときは、きっと今日の偶然の再会という喜びのひとときも思い出すはず。その日が楽しみだなあ。

 

そんなことを考えながら、次のワイナリーへと向かいました。

 

著者プロフィール

  • 馬田草織(ばだ さおり)
  • フリーランス編集者・ライター。上智大学文学部卒業後、出版社に勤務。女性誌編集部を経て独立。専門誌「dancyu」や女性誌、書籍、WEBなどで食を軸に幅広く活動中。素朴で親しみやすいポルトガルの食文化に魅かれ、一般家庭のキッチンからレストランの厨房、ワイナリーなどを訪ね取材を続けている。旅で教わったレシピをおすそ分けする、ポルトガルの家庭料理とワインを楽しむ料理会「ポルトガル食堂」も都内で定期的に開催中。最新情報:http://badasaori.blogspot.jp/
    書籍情報:『ようこそポルトガル食堂へ』(産業編集センター、2008年) 『ようこそポルトガル食堂へ』(増補改訂版・幻冬舎文庫、2014年) 『ポルトガルのごはんとおつまみ』(大和書房、2014年) 

連載情報

  • Saude(サウードゥ)!ポルトガル(全10回)
  • 馬田草織
  • ヨーロッパの西南端にある国、ポルトガルを訪ねたことはありますか?日本からは飛行機を乗り継いで20時間近くかかる遠い国ですが、文化的には実はとても近く、深い縁があります。私は仕事で旅するうちに、じわじわとポルトガルの魅力に引き込まれていきました。ポルトガルのどんなところが魅力的なのかを、旅人目線ですこしずつ、みなさまにご紹介していけたらと思っています。※Saude!(サウードゥ)は、ポルトガル語で「乾杯!」の意味です。

コメント

この記事へのコメントはありません。

この記事の関連ワード

新着の記事

Sidekibit b 36721a96ca968326c426bd24e800e7fbdce16ea2edb7fe133c34a0ba4a2e3c89

人工知能KIBITが、あなたに合った記事をおすすめします。 初めてKIBITに教えた時は翌朝までお待ちください。