学力に遺伝は影響する?「学業に影響する遺伝子」74個が特定

2016年09月20日

はぐれ薬学院生(♀)の “しみる” ひととき 第34回

 

「頭の良さは遺伝するらしい」なんて話、一度は耳にしたことがあるのでは。勉強をサボって赤点を取っていた頃は「蛙の子は蛙か…」なんて親がよく嘆いていたものです(子どもながらに必死でフォローしました)。最近では、ゲノム解析の技術が進歩したことで、少しずつ学業と遺伝の関係が明らかになってきています。

 

遺伝子が学業に与える影響は60%?74個の学業遺伝子とは?

 

2013年、イギリスのキングス・カレッジ・オブ・ロンドンが約1万人を対象に行った調査では、中学卒業時の学業成績に対する遺伝子の影響は58%で、学校や近隣の環境・家庭環境などの環境要因の影響(29%)のおよそ2という、衝撃的な結果が報告されました(残り13%はそれぞれの子どもの個性によるものだそう)。

 

また、今年、三大科学誌の一つ『Nature』に発表された論文では、約30万人の欧州人を対象に大規模なゲノム解析が行われました。930万箇所の遺伝的変異を調べた結果、74箇所の遺伝的変異について学業達成度との相関が見られたと報告されています。この研究で調べた学業達成度とは、教育を受けた年数のことで、大学や大学院などに進んだ人ほど数値が高くなります。
74個の「学業遺伝子」は、頭蓋容量(脳の大きさに似た値)、認知機能、双極性障害、アルツハイマー病、神経症傾向などと遺伝的な関連があったとのことです。

 

では、この遺伝子を使って子どもの教育年数を予測することができるでしょうか?研究チームがこれを試し、実際の教育年数と比較したところ、予測があたっていたのは3.2%でした。つまり、今回特定された学業遺伝子で説明できたのは、子どもの学力の3.2%ということになります。

教育年数は、単に本人のもつ力だけではなく、本人の意志や学費を払えるかどうかといった要素が大きく影響すると考えられます。

今回、学業遺伝子が特定されたのは大きな一歩ではありますが、学力を形作るものが何かを明らかにするのは、中々難しいようです。

 

 

やっぱり、蛙の子は蛙なの?—学力と遺伝に関する2つの誤解

 

まだまだわからないことが多い学力と遺伝の関係ですが、これまでに双子(一卵性双生児)を対象にした研究などからも、遺伝子が学力に大きく影響することはほぼ間違いないと考えられています。

 

「やっぱり、蛙の子は蛙なのか」—そんな声が聞こえてきそうですが、肩を落とすのはまだ早いようです。

日本で双子研究や行動遺伝学を行っている安藤寿康先生によれば、学力と遺伝に関して、社会では2つの誤解がされているとのこと。

 

(1)    学力が遺伝子に大きく影響されたとしても、「親次第」ではない

遺伝子、というと、親から子にそのまま引き継がれるものとイメージしがちですが、そうではありません。母親と父親の遺伝子の組み合わせによって、生まれてくる子どもの遺伝子パターンは膨大な数になります。

また、学力はポリジーンといって、たくさんの遺伝子のパターンが影響しあって一つの形質が作られているものです。そもそも学力自体が知能や性格といった複数の要素から形作られるものですが、個々の要素についてもどれか一つの遺伝子で決まるわけではありません。

親がどんな人であれ、生まれてくる子どもの学力や能力、性格を予測することはほぼ不可能といえます。遺伝があるからこそ、親とは違った多様な資質を持つ子どもが生まれるのです。

楽観することも、悲観することもありません。

 

(2)    「遺伝は一生変わらない」は誤解

成長するにつれて子どもの顔つきは変化していきます。1人の顔つきの変化はとてもダイナミックですが、不思議なことに、一卵性の双子ではその変化がほぼ同じです。これは、一つの遺伝子の影響が一生続くわけではないこと、またその変化は何らかの規定に沿っていることを示しています。(ある意味運命といっても良いのかもしれません)
つまり、遺伝的には子どもの能力はいくらでも変わり得るということです。

 

 

遺伝の影響が強くなるのは成長してから?

 

安藤先生によれば、遺伝の影響は生まれてすぐの時よりも、成長するにつれて色濃く出てくるとのこと。

実は、生まれたばかりの頃の方が、環境要因の影響が大きく、成長するにつれてその影響が小さくなり、代わりに遺伝の影響力が大きくなってくるそうです。

色々な人やモノに触れ合い、時に厳しい環境に晒されて経験を積んでいくことで、子どもたちはだんだんと「遺伝的な自分自身になろうとする」のではないか、とのこと。

 

一方で、15歳くらいまでの時期は、家庭環境の影響が子どもの行動(認知能力、学業成績、非行など)に反映されやすいということも言われています。

勉強する習慣、学業とその他の何を重視するか、同じお金があったら教育に使うのかどうか―このような親と子の関わりが、中学生くらいまでは違いとなって現れている様です。ただし、大人に近づくにつれて遺伝子の影響が高まるため、良くも悪くも幼いころの家庭環境の影響が一生続くわけではないそうです。

 

「楽観しすぎず、悲観せず」—親ができるのは、子どもの現在の能力を手助けすること、将来遺伝的な変化が訪れたとき、本人が力を発揮できる環境を出来る限りで整えること、でしょうか。

今後、ゲノム解析の技術が発達していくと、遺伝的な見地をもとに、親が子どもをうまく手助けする参考となるような情報が得られると期待されています。一人一人の能力を最大限引き出せるような、多様な教育手法が開発されると良いですね。


 

出典・参考文献

Okbay A, et al. Nature 2016; 533(7604):539-42

Nicholas GS, et al. PLoS ONE 2013 8(12):e80341

安藤寿康, 第2回「遺伝子は『不都合な真実』か?」(1) 子ども学カフェ(日本子ども学会)2013.2

 

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